「ちと」・・・読書と静かな生活と
「紫陽花のつぼみ」と「「山の雪」高村光太郎
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作成日時 : 2008/05/24 23:55
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わたしの小屋は村の人たちのすんでいるところから
四百メートルほど山の方にはなれていて、
まわりに一けんも家はなく、林や野はらや、少しばかりの畑などがあるだけで、
雪がつもるとどちらを見てもまっしろな雪ばかりになり、人っこひとり見えない。
むろん人のこえもきこえず、あるく音もきこえない。
小屋の中にすわっていると、雪のふるのは雨のように音をたてないから、
世界じゅうがしずかにしんとしてしまって、つんぼになったような気がするくらいだが、
いろりでもえる薪がときどきぱちぱちいったり、やかんの湯のわく音がかすかにきこえてくる。
そういう日が三ヶ月もつづく。
半端じゃない孤独状態です。
私も静寂の中で黙々と本を読むのは好きですが、
三ヶ月となるとちょっと・・・自信無いです。
一メートルくらいつもった雪はあるきにくいから人も小屋にたずねてこない。
あけてもくれてもひとりでいろりに火をともしながら、
食事をしたり、本をよんだり、仕事をしたりしているが、
そんなにながくひとりでいるとなんだか人にあいたくなる。
人でなくてもいいから何か生きているものにあいたくなる。
鳥でもけだものでもいいからくればいいとおもう。
高村光太郎は明治十年生まれ。
父は仏師出の彫刻家であったと、『回想録』の中で詳しく語っています。
智恵子の病、自分の病、戦争をくぐり抜け・・と年譜を見ているだけでも
計り知れない苦難の連続です。
光太郎と云えばやはり『智恵子』を抜きには語れないのでしょう。
『智恵子抄』は学生の頃読んだきりなのですが、正直なところ理解できたとは云えませんでした。
いくら夢見がちな女学生であったにせよ、
「在り得ないお話だよね・・」と思いながら読んでいた記憶があります。
しかし、今回光太郎の生涯を作品の抜粋と年譜で追いながら、
ひょっとしてほんとうにあったお話なのかもしれない、と思えました。
以下は『智恵子の半生』から
彼女は海岸で身体は丈夫になり朦朧状態は脱したが、
脳の変調はむしろ進んだ。
鳥と遊んだり、自身が鳥になったり、
松林の一角に立って、光太郎智恵子光太郎智恵子と
一時間も連呼したりするようになった。
父の死後の始末も一段落ついた頃彼女を海岸からアトリエに引き取ったが、
病勢はまるで汽缶車
(儘)
のように驀進(ばくしん)して来た。
−−−− −−− −−−−
在る偶然の満月の夜に、智恵子はその個的存在を失うことによって
却って私にとっては普遍的な存在となったのである事を痛感し、
それ以来智恵子の息吹を常に身近に感ずる事が出来、
言わば彼女は私と偕(とも)にある者となり、
私にとって永遠なるものという実感の方が強くなった。
私はそうして平静と心の健康とを取り戻し、仕事への張り合いがもう一度出てきた。
彼女は何処にでも居るのである。
智恵子を失った後、岩手県花巻に疎開し、山小屋の冬を迎えます。
そうしてここで『山の春』『山の秋』という作品をも生み出しています。
『山の雪』のなかでは、夜中に遊びにやって来たジネズミと戯れる描写があり、
また、豊かな自然が心に充ちてくるように表現されています。
・・・私はこの世で智恵子にめぐりあったため、彼女の純愛によって清浄にされ、
以前の退廃生活から救い出される事が出来た経験を持っており・・・
と光太郎に云わしめたお話。
『智恵子の半生』『智恵子抄』は青空文庫にもありました。
文頭画像は紫陽花のつぼみ。梅雨への準備をすすめる庭です。
もうひとつは西洋紫陽花、『ハイドランジア』と呼びましょう。
『アナベル』という真っ白からグリーンがかった紫陽花です。
毎年咲くのが待ち遠しい花の一つです。
智恵子の半生
山の雪 高村光太郎 昭和文学全集 巻四
前回の訂正を少し。智恵子抄はすこしだけ「詩の巻」全集に載っていました。
(でも、あまりにも少しなので・・全体像すらつかめそうに無いです)
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