私は電車に乗ると異常な興奮を感ずる。
人の首がずらりと前に並んで居るからである。
人間移動展覧会と戯(たわむれ)に此れを称(たた)えて
よく此事を友達に話す。近代が人に与えてくれた特別な機会である。
此所に並んで居る首は、美術展覧会に於ける絵画彫刻の首と違って、
観られる為に在るのではない。
ロクでもない美術品の首よりも私はこの生きた首が好きである。
彫刻家なんですから、こう云う見方もするのだろうと思いましたが、
初読時には思わず笑ってしまいました。一般人にとっては新鮮な視点です。
この文章を読んでから、地下鉄で「そう云う目で」見てみました。
非常に面白かったです。
人の首ほど微妙なものはない。
よく見てみるとまるで深淵にのぞんでいる様な気がする。
其人をまる出しにしているとも思われるし、又秘密のかたまりの様にも見える。
そうして結局其人の極印だなと思わせられる。
どんな平凡らしく見える人の首でも実に二つと無いそれぞれの機構を持っている。
内心から閃(ひら)めいて来るものの見える時は
其平凡人が忽ち怖ろしい非凡の相を表す。
電車の中でも時々そういう事を見る。
ここまで来ると一般人には見切れない深遠なものがありますね。
もう少し地下鉄の中で注意深く見てみる必要がありそうです。
しかし、まあ、いくら頑張っても彫刻家の目は手に入らないですよね。
日本の文芸家の首にも興味がある。
室生犀星氏の首には汲めども尽きない味がある。
彼の顎と目は珍宝である。
佐藤春夫氏は彼の無名時代に肖像を画いたのがあるので知っている。
彼の首には秀抜な組立てがある。彼を彫刻で作らなかったのが心残りだ。
具体的に実像を結ぶまでには想像できないのですが、
理屈抜きにして面白い表現です。
高村光太郎は詩人としても有名なのですが、
こういった散文めいた随筆も非常に深い面白みがありました。
昭和文学全集にはいくつか短散文が載っています。
「顔」「感覚の世界」「小刀」「自作肖像漫談」
いずれも「天性の彫刻家の手になるものである」
と全集の解説に書かれていることが納得できます。
高村光太郎といえば「道程」とか「智恵子抄」が有名なのですが、
この全集にはいずれも掲載されていません。
(「詩」集では無いからという理由だけでは無いようです。
柳田國男に「遠野」が無いし、佐藤春夫に「田園・・」入っていません。)
この全集の選は独特の視点があるようで、選出された作品を読む楽しみがあります。
高村光太郎の続きは次回に・・・・
 写真は「ハニーサックル」
テキスタイルデザイナー、ウイリアムモリスのパターンにあこがれて苗を通販で購入したのですが、予想をはるかにこえて茂りました。ジャスミンよりもふんわりとやさしい甘い香りです。すいかずら科の落葉つる性低木。
ハニーサックルは文学作品や詩にたくさん出てくるのです。花屋さんには売っていないし、どうしても実物を育ててみたかった植物です。
和名は「つるぬきにんどう」「においにんどう匂忍冬」「すいかずら(忍冬)」などと呼ばれています。
多数の園芸種が在るそうです。
モリスのお嬢さんも同じ植物からパターンを作っているのですが、お嬢さんの作品は繊細な趣があります。甲乙つけがたく両方とも好きです。
モリスは詩人でもあります〜でも、不思議にも私はモリスの詩をあまり読んだことがないのです。

人の首 高村光太郎 昭和文学全集 巻四
アメリカの刺繍本から。本には図案も載っていますが、パターン化したキットを売っているらしいです。基はモリスのデザインだと書いてあります。若干のアレンジあり?(beth russell`s )5/22追補
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